農業生産法人「(株)アグリ南郷」を設立し、
露地トマトを生産・販売


南会津町 山星建設(株)(TEL 0241-73-2134)
 南会津町の山星建設(近藤利男社長)は、南郷地域の宝とも言える露地トマトの栽培・販売で農業分野に進出した。農業生産法人「(株)アグリ南郷」を平成19年に設立し、約50aの農地を借り受け生産を開始した。おいしくて安全安心のトマトの需要が首都圏で高まっていることを受け、市場を介さない全国ネットの販売会社「(株)りょくけん」と提携、安定した価格で流通できる新流通経路の販売システムを確立している。建設業が露地トマトの生産販売を行うことは、全国でも初めての事業で注目を集めており、同社の新分野進出事業は高い評価を受け、平成21年度福島県建設業新分野進出優良企業表彰を受賞した。この表彰は、福島県で20年度から採用された新制度。

 


農業分野に進出した経緯
 南郷のNPO法人「じねんと」で近藤社長が活動していた時、「(株)りょくけん」が露地トマトを首都圏のデパート、スーパーに出荷するため、南郷地区の露地トマトを安定供給できる生産者を探していた。当時、JA会津みなみは、ハウストマトを「南郷トマト」として商標登録し、露地トマトの生産を行っておらず、露地トマトはハウストマトを生産できなくなった農家が細々と生産し、街道沿いで販売する程度であった。
 同社の社員の中に露地トマトの生産経験者もおり、地域の露地トマト生産技術者との強い繋がりや信頼関係が十分に築かれていることから、同社の人材・技術、資源を融合し、平成19年に「アグリ南郷」を設立、農地を借り受け事業化に踏み切った。
 特に同地域は、長引く景気低迷及び公共事業の削減により、企業体力が弱体化し、雇用の確保・維持が困難な状況。露地トマトはハウストマトの生産より、比較的重労働を要しないで行えるため、75歳位まで働くことが可能ということから、雇用を守る観点においても露地トマトの生産に踏み切った。 ※NPO法人「じねんと」は、南郷地区の商工会が中心となり、一人暮らしの老人の家の除雪支援などを行っていた。
露地トマトの特徴と地域の特性及び新流通経路で安定経営が可能
 南郷地域は、トマトの生育温度(15℃~25℃)に適合し、尚且つ一日の温度差が10度以上と最も適している。そのため、露地トマトはハウストマトに対し、糖度6・0~7・0で1%以上、酸度0・7~0・8で0・1%、直射日光量もハウスより25%それぞれ多い。露地トマトは、食するとハウストマトより固く、甘く、おいしいと言われている。銀座のデパートでは、ハウス物と露地物を同じスペースに置き、同時販売した結果、露地トマトに満足の評価が出ており、今後に期待が出来る結果となった。
 (株)りょくけんの販売ルートが確立しているため、露地トマトの出荷販売価格は、ハウストマトのように市場変動せず、安定。収益は栽培同面積の1・2~1・5倍程度見込める。
 現在、露地トマトの栽培技術者は、70歳代が最後で今後は減少していくばかり。地域の宝である露地トマトの栽培技術が絶えてしまう恐れも出てきている。同社は、その技術を伝承していくために、作業の標準マニュアル化を行い、後継者育成という大きな責任を担うことで、事業推進する重要な意義を見出している。
事業の現況と今後の見通し
 「アグリ南郷」では、平成20年20aの農地に露地トマトを生産、約500万円の売上げを上げた。平成21年は40aと倍に増やし、社員2人とアルバイトの6人体制で、約1000万円の売上げを上げた。現在、同社以外の近隣農家の生産を含めて約1haの生産を行っているが、(株)りょくけんの必要買取栽培面積は10ha。「アグリ南郷」としては生産規模を余り増やさず、退職者をはじめ地域に働く場を確保し、地域全体で10haの生産を目指す方針。
 (株)りょくけんへの販売予定価格は平均で1kgあたり225円(平成21年)。市場を通さず両者の協議において決定されるため、安定価格での出荷が可能となり、経営戦略が立てやすいのが特徴のひとつ。

   


 また、アグリ南郷では、露地トマトの選果と運搬を行っており、4t保冷車を購入して週3回、(株)りょくけんへの運搬業務も担当している(近隣農家が生産したものを含む)。
 昨年、(株)りょくけんの実施した消費調査販売量25tは、消費者に好評価であったことから、大幅な委託生産を増やしたい要望があった。企業による大規模生産の依頼を受けているのも現状であるが、今後は露地トマト生産の作業標準マニュアルを作成し、安定した収穫の確保に努めることが先決としている。
※(株)りょくけんは、静岡県浜松市に本社があり、農産物の生産指導、物流、販売等を実施して年間40億円の売上を上げている。首都圏の大手デパートやスーパーマーケットを相手先として、農家から直接消費者に渡るシステムを作り上げている。
 山星建設の近藤利男社長は、「新分野進出は、地域貢献と雇用の確保が最重要として取り組んできた。そのためには、本業に負担のかからないよう初期投資が少なく、いつでも撤退できることが大事」と新分野に取り組む姿勢を語る。今後は、民有林の林業事業分野にもチャレンジしていく方針。
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