社内の「自然環境チーム」が積極提案
南会津町 (株)星 組(TEL 0241-73-2214)
春、白い水芭蕉に始まり、リュウキンカ、ワタスゲ、ニッコウキスゲなどの花々が咲き競う国立公園尾瀬は、原始の風景を残す貴重な動植物の宝庫。湿原にどこまでも伸びる木道は、国民的唱歌「夏の思い出」で有名だ。
南会津町の星組(星公正社長)は、半世紀近く尾瀬で木道整備などに取り組んできた。国立公園の尾瀬では、法によりさまざまな制約を受ける。尾瀬特有の自然環境を守るために外来種が中に持ち込まれないよう、使う石などは洗浄し、資機材を運ぶにもヘリコプターを使う特殊な工事である。
日々変化する自然と人間との知恵比べの中で、「環境保全」のノウハウを蓄積してきた。「地域保全に責任を持つ」と昨年4月、専門部署として「自然環境チーム」を社内に発足させた。人間の考え通りには運ばない自然界で、その場所により適した工程や工法を提案している。
チームの一員の津田智匡氏は「私たちの役割は、自然豊かな尾瀬というフィールドで、構造物の施工者としての視点と自然環境に対する配慮の視点の両方を持ち、より良い手法の検討を行って、専門分野の垣根を越えた取り組みを提案すること」と話す。尾瀬湿原で実施した護岸工事では、貴重植物のイトキンボウゲを保存するために、あえて雪がある時期に工事を行った。雪が緩衝材となり、地面に直接触れることなく護岸部にふとん篭を積み上げた。
最小限の負荷で工事は進み成功したが、検査時に少し戸惑う場面もあったという。工事の際に凍結して土が浮き上がり、品質には問題ないもののミリ単位の検査に整合しなかったという。スケールで測る検査が自然公園の実態に馴染まないケースも多い。同社顧問で木道づくりのプロである本名由昭氏は「自然界は日々変化するのが本来の姿。工事の場所にもよるが、検査の優先順位などは見直しが必要かも知れない」と振り返る。
設計通りに工事が進まない場合も多い。ヘリコプターによる資材などの運搬では、山の標高や場所によって設計を変更する場合も多く、こうしたことも同社が積極的に提案する理由だ。
入札にある地域要件も「地域の気象条件や地形、特殊な動植物を知る地域の企業という意味がある」と星社長は話す。尾瀬を訪れるハイカーは自然環境に対する意識が高く「なぜここで工事をしている」などクレームに似た声もある。しかし多くのハイカーが訪れる尾瀬の自然を保全するためには必要な施設整備。「散策中の人たちにヘリコプターの音は申し訳ないが、自信を持って取り組んでいる。尾瀬を維持管理する仕事の中で、さまざまなことが学習できた」と星社長。社内に航空無線技術者も置くなど、人材の厚みも同社の強みになっている。自然保護と地域建設業の役割を発信するため、社員が講師となり小学校で環境学習を進めている。
一方、同社などで構成する奥会津元気回復協議会では、建設会社が主体となり伊南川流域の活性化事業をスタートさせた。上流下流の連続性などをテーマに川づくりに取り組む。既存の魚道が機能していない場所もあるため、今後は調査と検証を進める。土木の領域から一歩踏み出し、多自然型の川づくりから、流域の環境づくり、地域づくりを目指す。
ヘリコプターで機材などを運ぶ尾瀬での木道工事
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