CLT活用し福島創生/新たな木造建築実現
オリンピック施設への県産材CLT活用期待


福島県CLT推進協議会
(会津土建(株) TEL 0242-26-4500)
 県産木材の需要拡大につながると期待されている新構造体「CLT(クロス・ラミネイティド・ティンバー)」。県内唯一の推進組織、県CLT推進協議会(菅家洋一管理者)は平成26年3月、会津土建(会津若松市)、藤田建設工業(棚倉町)、菅野建設(福島市)、協和木材(塙町)の4者で発足した。同年9月には会津若松市内にCLT実験用ハウスを建設、27年2月には同じく会津の河沼郡湯川村に東日本では初めてのCLT集合住宅が完成した。CLTを用いた新たな木造建築が、本県林業を再生し「ふくしま創生」を実現するか注目されている。

  CLTとは「ひき板」の層を各層が互いに直交するように積層・接着したパネルとそれを用いた工法のことで、1990年代半ばにヨーロッパで開発された。幅や厚みの異なる木板も有効活用できるほか、加工部材は50~250㍉程度の厚みがあり、高い断熱性や耐震性、遮音性、耐火性能を備える。ロンドンをはじめヨーロッパ各都市やオーストラリアのメルボルンなどで8~10階建ての高層建築物の施工事例もある。
 国も「地方創生」を確かなものとするため、国産材の活用に乗り出す。新成長戦略に「28年度早期をめどにCLTを用いた建築物の一般的な設計法を確立する」と明記。普及のため26年度、自治体や民間事業者が整備する施設建設の費用補助などの支援を開始、実績づくりを加速させている。28年度には一般のCLT建築基準を整える方針だ。

湯川村のCLT集合住宅構造見学会
湯川村のCLT集合住宅、(右)は構造見学会の様子


 同協議会が芝浦工業大学と連携して移築した実験用ハウスは、復興庁の26年度「新しい東北」先導モデル事業(福島県木材活用CLT建築物推進事業)に採択。 湯川村の集合住宅は、県森林整備加速化・林業再生基金事業(林業・木材産業等振興施設整備等)CLT等新製品・新技術実証展示プロジェクトの採択を受けて建設が進められた。27年1月には、小泉進次郎内閣府政務官らをパネリストに迎え、「地域林産業とCLTを起爆剤とした福島からの東北復興・地方再生」をテーマに、循環社会づくりによる地域再生シンポジウム=写真右=を開催。CLTの可能性に期待する行政や業界関係者、一般県民ら約340人が参加し、普及促進へ理解を深めた。

 協議会管理者の菅家洋一会津土建社長=写真下=にこれまでの経緯と今後の見通しを聞いた。

― 取り組むきっかけ ―
   平成18年に、コンパクトシティの先進事例調査を目的とした欧州視察に参加しました。川手副知事(当時)が同行され、この視察で「サスティナブル(持続可能)なコンパクトシティ」の実現に向けたまちづくりを先進的に進めている各都市を視察して参りました。その際、CLT(直交集成板)と出会い、森林再生・循環型社会の形成に寄与できると考え、取り組みを開始しました。その後、CLTに先進的に取り組んでいるオーストリアへ何度か足を運び、CLTについて視察を重ねました。昨今のCLTに対する国を挙げての取り組みに驚いておりますが、CLTを起爆剤とした森林再生、循環型社会の形成は実現可能であると確信しました。

― これまでの経緯と課題 ―
 木材が原料とはいえ、これまでになかった新しい構造用建築材料であることから、森林総合研究所を中心に、寸法安定性、接着性能、強度性能など材料の基本的な性能の検証作業が進められてきました。
 また、独立行政法人農林水産消費安全技術センターにおいてCLTの規格整備のための委員会が開かれ、25年12月にCLTのJASである「直交集成板の日本農林規格」(「直交集成板」はJAS上でのCLTの名称)が制定されました。
 JAS化によりCLTの製造規格はできました。しかしながら、構造用の建築部材としてCLTがすぐさま一般的に利用できるわけではありません。
 CLTを構造用建築材料として使用するには、日本では建築基準法上での位置付けが必要です。そのため材料強度やCLT構造の技術基準に関する膨大なデータを蓄積し、そのデータを基に、どのように建築基準法に位置付けるかを検討しなければなりません。CLT利用のためには、まず法的な課題のクリアが前提条件です。
 CLTについての建築基準法の改正を見据えた検討は、国土交通省の事業などで現在行われていますが、検討に必要なデータを蓄積するのに時間を要するため、一般に利用できるようになるのは28年度以降と考えております。
 そのため、現時点ではCLTを構造材として利用することはできませんが、時刻歴応答解析(超高層ビルの設計をする際に用いられる高度な解析)を伴う国土交通大臣の認定を得れば、CLT構造による建物の建築は可能です。実績をつくることは、建築基準法改正への働きかけのためにも、同時に普及のためにも重要であると考えております。

― 今後の取り組み ―
 CLT利用のための取り組みはまだスタートしたばかりです。実際に構造用の建築材料として利用できるようになるまでには、まだ課題が山積しています。しかしながら、欧州での実例や国内での実験を見るにつけ、CLTは大きな将来性を秘めたものだと確信しております。日本は地震多発国ではありますが、将来的に少なくとも5~6階程度の中層建築の建材は、CLTにシフトしていく可能性があります。今後も多くの方の協力を得ながら、前向きに取り組みを進めていくことが大事だと思っています。
 日本は資源に乏しい国だと言われていますが、木材に関しては資源国。22年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、低層の公共建築物について、原則として全て木造化を図ることになっています。
 32年には東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。CLT利用のための環境整備を進め、ぜひオリンピック施設のうちのいずれかに福島県産材CLTが利用できるようにしたいとも考えております。
 CLTは再生可能な資源を使った環境負荷の少ない21世紀型の材料です。日本国内だけでなく、将来的には海外へ県産材を活用したCLTを輸出することも視野に入れながら、着実に一歩ずつ取り組んでいきたいと考えています。
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