優れた技能をデジタル化して保存、再現
~ふくしま棟梁の技伝承事業~
 厚生労働省が行う卓越した技能者表彰の受賞者は、「現代の名工」と呼ばれるモノづくりの第一人者です。
 その熟練の技は、誰もが羨望するものでありますが、それを後世に伝えることは簡単ではありません。しかし、技術・技能の伝承は、地域文化や産業の発展に不可欠であり、地道な取り組みが続けられています。そうした中で、木造建築の全てを取り仕切る棟梁の技をコンピュータで保存、再現する取り組みが全国に先駆けて本県で行われました。取り組んだのは、福島県土木部建築住宅課を中心に県立会津大学、ソフトメーカー、そして(社)福島県建築大工業協会の面々。
 その成果は、優れた技能を伝承する活動、さらに大学が行っている運動解析の研究に役立てられています。
 「ふくしま棟梁の技伝承事業」として行われたこの事業は、伝統的木造住宅工法に係わる棟梁の技をモーションキャプチャー技術で捉えコンピュータグラフィックス化を図り、また、荷重測定装置等によって科学的データも収集するもので、情報公開に適したデジタルデータを作成し一般県民まで広く情報提供を行うとともに、伝統的工法や技の伝承支援を行うことが目的でした。その成果は、県土木部建築住宅課のホームページからダウンロードが可能です。
 第一弾として、現代の名工であり県建築大工業協会会長を務める瀬谷善壽氏の技(鉋がけ)を収録する作業が、平成13年2月21日に会津若松市の県立会津大学マルチメディアセンター運動解析ルームで行われました。
 瀬谷氏は、木造軸組工法をはじめとして、歴史的に価値のある建築物や工法を研究しながら、忠実な再現と耐震構造の強化に取り組んでおり、その成果を分析しながら独自の教材を多くの職業訓練生に提供しています。
 会津大学マルチメディアセンターの運動解析ルームには、ウマと柱材が準備され、はっぴ姿の瀬谷氏が鉋がけを行いました。瀬谷氏の体には、動きを特徴づける箇所にマーカーという目印が取り付けられ、これを特殊なカメラで撮影しコンピュータに送ったわけですが、この映像に瀬谷氏の体は映らず、体に取り付けられたマーカーの位置と回転情報だけに整理され、コンピュータグラフィックスの基になる鉋がけの動きが作られたわけです。同時に床に取り付けられた反力測定装置によって、床への荷重が記録されました。
 これらの記録された情報は、デジタル化されたことによって様々な活用が可能になりました。例えば、腰の上下の動きだけを見ることもできます。また、三次元コンピュータグラフィックスのキャラクター(この場合は瀬谷氏)を捉える視点は、正面、左右、上下と自由に動かすことが可能です。
 大量生産か、大量消費の時代が過ぎようとしている昨今、モノづくりの技術が見直されています。しかし、身体で覚えるこうした技術、技能の伝承は、簡単なことではなく、時代と共に消えていく技術も多いのです。
 この取り組みは、行政における産業の振興施策、大学におけるデジタル技術の構築、そして大工業協会にとって技能の伝承が同時に図られたものです。最新の産・学・官連携事業と言えるのではないでしょうか。



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